この5冊について

本屋大賞は、全国の書店員の投票で決まる文学賞だ。2004年に始まってから、毎年「今いちばん売りたい本」として選ばれた作品が並んでいる。

本屋大賞の受賞作は手に取りやすい本が多い。ただ、読みやすいだけで終わるわけではないと思う。今回は、入りやすさがありつつ、読んでから自分の見え方まで少し動く5冊を選んだ。


1. 『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈(2024年)

成瀬は天下を取りにいく

成瀬は天下を取りにいく

宮島未奈 / 新潮社 / 2023-03-17

最初はただ成瀬あかりの勢いに笑って読んでいた。でも読み進めるうちに、あのまっすぐさが周りの人の時間まで動かしていくのが見えてくる。軽やかで、会話もテンポがいい。それなのに、読み終わったあとでふと思い出すのは、誰かが自分のままでいることのまぶしさだった。

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2. 『汝、星のごとく』凪良ゆう(2023年)

汝、星のごとく

汝、星のごとく

凪良ゆう / 講談社 / 2022-08-02

読み始めたときは恋愛小説として入れる。途中からどんどん別の重さが出てくる。家族、土地、仕事、才能、正しさ。そのどれもが二人の関係に食い込んでくる。ページをめくる手は止まりにくいのに、読んでいてずっと苦しい。数日してから、暁海と櫂が抱えていたものの量を改めて考え直したくなる一冊だった。

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3. 『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬(2022年)

戦争小説としての勢いが強く、一気に読まされる。ただ、読みやすさの奥にあるのは、撃つことと生き延びることが切り離せない世界の厳しさだった。主人公のセラフィマが前へ進むほど、読んでいる側は何度も立ち止まりたくなる。読み終えたあとは熱さより先に、あの世界では何を選んでも傷が残るという事実が重く沈んだ。

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4. 『蜜蜂と遠雷』恩田陸(2017年)

蜜蜂と遠雷(上)

蜜蜂と遠雷(上)

恩田陸 / 幻冬舎 / 2016-09-23

蜜蜂と遠雷(下)

蜜蜂と遠雷(下)

恩田陸 / 幻冬舎 / 2016-09-23

ピアノコンクールを描く話なので華やかに見えるが、読んでいると音楽そのものに向き合う人たちの孤独まで見えてくる。才能のきらめきに引っぱられて進むのに、競争の残酷さや、自分にしか聴こえない音を追う切実さも広がっていく。読み終えた日の帰り道では、駅のアナウンスや靴音まで少し違う調子で耳に入ってきた。

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5. 『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎(2008年)

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

伊坂幸太郎 / 新潮社 / 2007-11-30

首相暗殺犯に仕立てられた男の逃走劇として、とにかく先を読みたくなる。ただ、この本があとから重くなるのは、巨大な陰謀の話より、人が誰を信じるかという線がずっと通っているからだと思う。スピード感のあるエンタメとして読めるのに、最後には逃走劇より、昔の会話や助けてくれる人の顔つきのほうを思い出していた。

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本屋大賞 歴代受賞作一覧(2004〜2024年)

タイトル 著者 備考
2024 成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈 感想あり
2023 汝、星のごとく 凪良ゆう 感想あり
2022 同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬
2021 52ヘルツのクジラたち 町田そのこ 感想あり
2020 流浪の月 凪良ゆう 感想あり
2019 そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ
2018 かがみの孤城 辻村深月 感想あり
2017 蜜蜂と遠雷 恩田陸 感想あり
2016 羊と鋼の森 宮下奈都
2015 鹿の王 上橋菜穂子
2014 村上海賊の娘 和田竜
2013 海賊とよばれた男 百田尚樹
2012 舟を編む 三浦しをん
2011 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉
2010 天地明察 冲方丁
2009 告白 湊かなえ
2008 ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎 感想あり
2007 一瞬の風になれ 佐藤多佳子
2006 東京タワー リリー・フランキー
2005 夜のピクニック 恩田陸
2004 博士の愛した数式 小川洋子

まとめ

本屋大賞の受賞作は読みやすい入口を持つ本が多い。ただ、そこで終わらず、あとから別の顔を見せてくる作品も多い。読みやすさに背中を押されて手に取り、そのあと何日かしてから別の場面が浮かんでくる感じも、本屋大賞のおもしろさだと思う。