この5冊について
3月に読んだ小説の中から、評価の高かった5冊を並べた。順位はつけているが、どれもかなり好きだった本だ。
あとから見返して気づいたのは、5冊とも「普通」の枠にきれいに収まらない人の話だったことだ。声を上げられない人、家族の中でずれている人、才能のせいで規格から飛び出してしまう人、恋愛や結婚の正解に馴染めない人、学校へ行けない子どもたち。意識して揃えたわけではないのに、結果的にそこへ集まっていた。
辻村深月が2冊入っているし、本屋大賞まわりの本も多い。3月は、自分でも思っていた以上に「うまく生きられない人」の話ばかり読んでいた。
5位:『かがみの孤城』辻村深月

かがみの孤城 上

かがみの孤城 下
学校に行けない7人の中学生が、鏡の中の城へ集まり、約1年を一緒に過ごす話。ファンタジーの入口から入るが、読み進めるほど現実の痛みのほうが前へ出てくる。
後半の伏線回収が鮮やかなのはもちろんだが、この本でいちばん効いたのは、救われた側が次に誰かを救う流れだった。きれいに終わる話というより、こころたちの時間を受け取る本だった。
4位:『傲慢と善良』辻村深月

傲慢と善良
婚約者の失踪をきっかけに、恋愛、結婚、自己評価が全部めくれていく話。形だけ見ると恋愛小説だが、読んでいると価値観のほうを見返すことになる。
とくに刺さったのは、自分の内面を見透かされている感じだった。婚活や親の期待、世間体の窮屈さが、自分とは無関係な問題として読めない。読んでいるあいだ、ずっと落ち着かなかった。
3位:『蜜蜂と遠雷』恩田陸

蜜蜂と遠雷(上)

蜜蜂と遠雷(下)
ピアノコンクールに挑む4人の物語。塵、亜夜、明石、マサルが順番に前へ出てきて、同じコンクールでもまるで違う景色を見せてくる。
この本は、音を言葉でここまで書けるのか、という驚きが最後まで続いた。文字を追っているだけで、音が聞こえる。コンクール小説として面白いだけでなく、読書体験そのものが少し特別だった。
2位:『水を縫う』寺地はるな

水を縫う
手芸が好きな男子高校生の清澄を中心に、家族それぞれの「普通」と少しずれた感覚が描かれる話。家族小説としては静かだが、同じ家にいる気まずさまでちゃんと置いていく。
やさしさだけで包まない。そこがいちばん信用できた。誰かを完全に理解しなくても、一緒にいることはできるのかもしれない。その不器用なまとまり方が、この5冊の中でもいちばん生活に近かった。
1位:『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ

52ヘルツのクジラたち
虐待と孤独を抱えた貴瑚と、「ムシ」と呼ばれる少年が出会い、届かない声を聴き合っていく話。海辺の町の静けさの中で、言えなかったこと、言っても届かなかったことが少しずつ前へ出てくる。
泣ける小説という言葉では足りなかった。救う側と救われる側がきれいに分かれず、声を聴こうとすること自体が重く見える。3月に読んだ中では、この本のことをいちばん長く考えていた。



