凪良ゆうという作家

凪良ゆうは、2000年代後半にBL小説でキャリアを始め、その後一般文芸でも広く読まれるようになった作家だ。一般向け作品では、2017年の『神さまのビオトープ』を起点に読者層が一気に広がり、2020年に『流浪の月』、2023年に『汝、星のごとく』で本屋大賞を二度受賞している。

感情を大きく説明しない。けれど、台所で交わす短い会話や、返事の前にできる一拍の空白が胸へ入ってくる。読みながら圧倒されるというより、夜になってから「あのとき、あの人は何を飲み込んだんだろう」と考え直したくなる小説が多い。

世の中が貼るラベルからはみ出した人を書くときも、声高に擁護したり、美しい物語に整えたりしない。誘拐犯と被害者、家族に縛られた恋人、幽霊と暮らす妻。字面だけ追うと強い設定が並ぶが、実際に読んで残るのは、誰かと同じ部屋にいるときの息苦しさや、わかってもらえなかった日の沈黙だ。そこが凪良ゆうを続けて読みたくなる理由だと思う。


はじめて読む人へ:最初の一冊

汝、星のごとく(2022年、講談社)

汝、星のごとく

汝、星のごとく

凪良ゆう / 講談社 / 2022-08-02

瀬戸内の島で出会った暁海と櫂が、家族、仕事、才能のあいだで何度もすれ違っていく。恋愛小説として入っていけるのに、最後まで行くと恋愛だけでは収まらなくなる。本屋大賞受賞作の中でも手に取りやすく、最初の一冊を一つ選ぶなら、これがいちばん勧めやすい。

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流浪の月(2019年、東京創元社)

流浪の月

流浪の月

凪良ゆう / 東京創元社 / 2019-08-29

誘拐犯と被害者と呼ばれた二人が、十五年後に再会する。こちらも本屋大賞受賞作だが、『汝、星のごとく』よりずっと静かで、読む側に返ってくるものの種類が違う。「事実と真実はちがう」という言葉に掴まれたいなら、こちらから入るのもありだと思う。

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シリーズものの読み方

暁海と櫂のシリーズ(2作)

汝、星のごとく

汝、星のごとく

凪良ゆう / 講談社 / 2022-08-02

星を編む

星を編む

凪良ゆう / 講談社 / 2023-07-20

『汝、星のごとく』と、その続編にあたる中編集『星を編む』。続編といっても補足ではなく、前作では見えなかった過去、仕事、未来を別の角度から照らし直す本になっている。前作を読み終えて、登場人物たちの時間をもう少し味わいたいと思った人は、そのまま続けて読むのがいい。

  1. 汝、星のごとく(2022年、講談社)
  2. 星を編む(2023年、講談社)— 続編中編集。前作が好きだった人向け。

『星を編む』感想と軽いあらすじはこちら


もっと読みたい人へ

神さまのビオトープ(2017年、講談社) —— 死んだ夫の幽霊と暮らし続ける女性が主人公。その生活を奇妙だと思う周囲の目と、本人にとって自然な日常のあいだにあるずれが描かれる。一般文芸の出発点として名前がよく挙がる一冊。

わたしの美しい庭(2019年、ポプラ社) —— 屋上に小さな神社があるマンションを舞台にした連作長編。血のつながりや世間の形には収まらない人たちが、同じ場所で暮らしながら少しずつ関わっていく。凪良ゆう作品の中では、比較的手に取りやすい一冊。

滅びの前のシャングリラ(2020年、中央公論新社) —— 一か月後に地球が滅びるとわかった世界で、生きづらさを抱えた四人が最後の時間を過ごしていく。終末ものの形を取りながら、視線は最後まで一人ひとりの生活や人間関係に向いている。2021年本屋大賞にもノミネートされた。


全作品一覧(時系列)

一般向けに刊行された単行本・一般向けレーベルの作品を中心に整理。BL名義作品、原作付きシナリオ本、再刊タイトルは外している。

タイトル 出版社 メモ
2017 神さまのビオトープ 講談社 一般向け作品の起点としてよく挙がる
2019 流浪の月 東京創元社 2020年本屋大賞受賞
2019 わたしの美しい庭 ポプラ社
2020 滅びの前のシャングリラ 中央公論新社 2021年本屋大賞ノミネート
2022 汝、星のごとく 講談社 2023年本屋大賞受賞
2023 星を編む 講談社 『汝、星のごとく』の続編中編集
2024 ニューワールド 凪良ゆうの世界 中央公論新社 対談・全作品インタビュー集+掌編「ニューワールド」収録

どれから読むか迷ったら

入りやすさで選ぶなら『汝、星のごとく』、言葉にしにくい関係を先に味わいたいなら『流浪の月』からでいいと思う。どちらも本屋大賞受賞作で手に取りやすいが、きれいな感動だけを受け取って終わる本ではない。

気に入ったら、間を空けずにもう一冊続けて読んでみてほしい。『流浪の月』のあとに『汝、星のごとく』を読むと、凪良ゆうが何度も書いているのは、特別な事件そのものではなく、誰かにうまく説明できないまま生きている人の時間だと見えてくる。

この作家は、一冊目を読み終えた後より、二冊目に入ったときのほうが輪郭がはっきりする。何となく「こういうタイプか」というのが2作読むと大まかに掴めるので、さらに気になった人は他の作品含め手を伸ばしていくと良いだろう。