辻村深月という作家
辻村深月は、2004年に『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞してデビューした。2012年には『鍵のない夢を見る』で直木賞、2018年には『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞している。デビューから長いが、いまだに「次は何を書いてくるのか」が読めない。
強みが出るのは、居場所のなさと人間関係の息苦しさを書くときだと思う。学校、家庭、恋愛、仕事。人が逃げ場を失う場所をかなり細かく見る。だから読むのが楽な作家ではない。ただし、その苦しさを雑に描くことはしないので、読み終えたあとに登場人物の選択とその結果を純粋に味わうことができる。
学校ものや青春ものの印象が強いが、それだけでもない。『かがみの孤城』 のような王道ファンタジーもあれば、『傲慢と善良』 のように大人の価値観をえぐる恋愛小説もあるし、『闇祓』ではホラー寄りにも振れている。しかも伏線の仕込みがかなり丁寧で、終盤に入ってから一気に景色が変わるタイプの本が多い。
はじめて読む人へ:最初の一冊
かがみの孤城(2017年、ポプラ社)

かがみの孤城 上

かがみの孤城 下
学校に行けない7人が、鏡の中の城で1年を過ごす話。伏線回収の気持ちよさと、子どもたちの孤独の両方がちゃんと入っている。辻村深月の構成力と人物描写を一冊で味わうなら、やはりここから入るのがいちばんわかりやすい。
傲慢と善良(2019年、朝日新聞出版)

傲慢と善良
婚約者の失踪をきっかけに、恋愛、結婚、親の期待、世間体が次々むき出しになる。恋愛小説の形をしているが、読んでいると自分の価値観まで点検させられる。社会人以降なら、こちらのほうが先に刺さることも多いと思う。私も社会人になってから読了した。
ツナグ(2010年、新潮社)
死者と一度だけ再会できる「使者」をめぐる連作長編。設定はファンタジーでも、読んでいるあいだに前へ出てくるのは後悔と未練のほうだ。短い話の積み重ねで進むので入りやすく、辻村深月が書く「つながり」の感触もよく出ている。
シリーズものの読み方
ツナグシリーズ(2作)
死者と生者の橋渡しをする「使者」の物語。最初の『ツナグ』で祖母の代の役目を見て、続編では歩美が引き継いだあとの時間へ進む。読む順番は刊行順でいい。
- ツナグ(2010年、新潮社)
- ツナグ 想い人の心得(2019年、新潮社)
子どもたちは夜と遊ぶ / 名前探しの放課後(2作)
直接の続編ではないが、登場人物がつながっている。先に『子どもたちは夜と遊ぶ』を読んでおくと、『名前探しの放課後』で返ってくるものが増える。こういう作品またぎのリンクが多いので、辻村深月はまとめて読むほど面白い。
- 子どもたちは夜と遊ぶ(2005年、講談社)
- 名前探しの放課後(2007年、講談社)
もっと読みたい人へ
スロウハイツの神様(2007年、講談社) ——創作に打ち込む若者たちが集まるアパートを舞台にした群像劇。辻村深月のファンが代表作として挙げることの多い一冊。
朝が来る(2015年、文藝春秋) ——特別養子縁組を題材にした長編。家庭の外から見えにくい焦りや痛みを追っていく。河瀬直美監督で映画化もされた。
ハケンアニメ!(2014年、マガジンハウス) ——アニメ業界を舞台にした仕事小説。重い題材が続く辻村作品の中では、前へ進む勢いが比較的強い。
噛みあわない会話と、ある過去の話(2018年、講談社) ——会話が成立しているようで、根本ではずれている人間関係を描く短編集。暗いほうの辻村深月を読みたいならここ。
全作品一覧(時系列)
小説・短編集・連作を中心に整理。エッセイ、愛蔵版、文庫オリジナルは外している。
| 年 | タイトル | 出版社 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2004 | 冷たい校舎の時は止まる | 講談社 | デビュー作、メフィスト賞受賞 |
| 2005 | 子どもたちは夜と遊ぶ | 講談社 | |
| 2005 | ロードムービー | 講談社 | 短編集 |
| 2006 | 凍りのくじら | 講談社 | |
| 2007 | ぼくのメジャースプーン | 講談社 | |
| 2007 | スロウハイツの神様 | 講談社 | |
| 2007 | 名前探しの放課後 | 講談社 | |
| 2008 | 光待つ場所へ | 講談社 | 短編集 |
| 2009 | ふちなしのかがみ | 角川書店 | ホラー短編集 |
| 2009 | ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 | 講談社 | |
| 2010 | 本日は大安なり | 角川書店 | |
| 2010 | ツナグ | 新潮社 | 映画化 |
| 2011 | オーダーメイド殺人クラブ | 集英社 | |
| 2011 | 水底フェスタ | 文藝春秋 | |
| 2012 | 鍵のない夢を見る | 文藝春秋 | 直木賞受賞 |
| 2013 | 島はぼくらと | 講談社 | |
| 2014 | ハケンアニメ! | マガジンハウス | 映画化 |
| 2014 | 盲目的な恋と友情 | 新潮社 | |
| 2015 | 朝が来る | 文藝春秋 | 映画化 |
| 2016 | 東京會舘とわたし(上)旧館 | 毎日新聞出版 | |
| 2016 | 東京會舘とわたし(下)新館 | 毎日新聞出版 | |
| 2017 | かがみの孤城 | ポプラ社 | 本屋大賞受賞、アニメ映画化、感想あり |
| 2018 | 噛みあわない会話と、ある過去の話 | 講談社 | 短編集 |
| 2019 | 傲慢と善良 | 朝日新聞出版 | 感想あり |
| 2019 | ツナグ 想い人の心得 | 新潮社 | |
| 2021 | 琥珀の夏 | 文藝春秋 | |
| 2021 | 闇祓 | KADOKAWA | |
| 2022 | 嘘つきジェンガ | 文藝春秋 | 短編集 |
| 2023 | この夏の星を見る | KADOKAWA |
どれから読むか迷ったら
伏線回収や構成の気持ちよさを先に味わいたいなら『かがみの孤城』。大人の読者で、恋愛や結婚の息苦しさに興味があるなら『傲慢と善良』から入るのがいいと思う。
もっと深く浸かりたいなら、『スロウハイツの神様』から『ツナグ』へ広げていく読み方もある。辻村深月は一冊で終えるより何冊か続けると、登場人物のつながりや仕掛けの重なりが見えてきて、一冊目とは読み心地が変わる作家だ。



