宮島未奈という作家

宮島未奈は、2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞し、2023年にその作品を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビューした。2024年には同作で本屋大賞を受賞している。

読んでいると気分が明るくなる。軽やかな青春小説で終わりそうだが、宮島未奈の本はそこでもう一段深入りしてくる。変なことを真顔でやり切る人のまぶしさ、周囲がその人に巻き込まれて少しずつ変わっていく感じ、その両方がある。

学校ものの印象は強いが、それだけではない。『婚活マエストロ』では40代の婚活を、『それいけ!平安部』では高校の新しい部活を正面から書いている。題材が変わっても共通しているのは、周囲から少しずれた熱量を持つ人を笑いものにせず、その熱が周りを動かしていく瞬間を書くところだ。 成瀬シリーズは2026年3月時点で累計210万部を超え、2026年7月には舞台化も予定されているが、そこまで広がったのも、成瀬あかり一人の人気だけではなく、この作家が人の気持ちを上向かせる場面を描けるからだと思う。

はじめて読む人へ:最初の一冊

成瀬は天下を取りにいく(2023年、新潮社)

成瀬は天下を取りにいく

成瀬は天下を取りにいく

宮島未奈 / 新潮社 / 2023-03-17

最初の一冊なら、やはりここから。中学生の成瀬あかりが「この夏を西武に捧げようと思う」と言い出す時点で、もう普通の青春小説ではない。 勢いのあるキャラクター小説でありながら、成瀬を見ている周囲の戸惑いや変化もあり、シリーズの入口としてとてもおすすめだ。

感想と軽いあらすじはこちら

婚活マエストロ(2024年、文藝春秋)

婚活マエストロ

婚活マエストロ

宮島未奈 / 文藝春秋 / 2024-10-25

成瀬以外から入りたいならこれだと思う。婚活という題材だけ見ると少し身構えるが、実際は「場を回す人」と「その場に来る人たち」の熱量をかなり深く見ている本だ。成瀬シリーズほど一直線ではなくても、読んでいると「この人どうなるんだろう」と気になってページをめくってしまう感じは、この作品もある。

それいけ!平安部(2025年、小学館)

それいけ!平安部

それいけ!平安部

宮島未奈 / 小学館 / 2025-04-16

高校の新入生が平安時代好きの部活を作ろうとする話。設定だけでかなり特殊だが、そこで終わらず、部活を作るために人を集め、少しずつ場所ができていく過程まで丁寧に書いている。成瀬のような突進力を別の角度から味わいたいなら、この一冊も入口になる。

成瀬あかりシリーズ——3冊まとめて読む理由

成瀬は天下を取りにいく

成瀬は天下を取りにいく

宮島未奈 / 新潮社 / 2023-03-17

成瀬は信じた道をいく

成瀬は信じた道をいく

宮島未奈 / 新潮社 / 2024-01-22

成瀬は都を駆け抜ける

成瀬は都を駆け抜ける

宮島未奈 / 新潮社 / 2025-12-01

成瀬シリーズは、順番に迷わなくていい。『成瀬は天下を取りにいく』、『成瀬は信じた道をいく』、『成瀬は都を駆け抜ける』の刊行順で読むだけでいい。ただ、3冊読む意味はかなり大きい。

1作目の成瀬は、とにかく異物感が強い。膳所の中で一人だけ別の回転数で動いていて、周囲の人物は振り回されながら成瀬の面白さを発見していく。 2作目になると、成瀬を知っている人が増え、彼女のまっすぐさが「変わった人」ではなく「成瀬だから」で受け止められる場面が増える。 3作目では舞台が京都へ広がり、膳所の外でも成瀬が成瀬のままでいられるのかが見えてくる。

このシリーズの面白さは、成瀬が劇的に成長することではない。成瀬を見ていれば当たり前に感じるが、芯は全く変わらない。 その代わり、周囲の見え方が変わる。1冊目では驚いていた人たちが、2冊目では頼もしさを感じ、3冊目ではもう成瀬のペースに巻き込まれる側として腹をくくっている。そこが3冊まとめて読むとよくわかる。ついでに成瀬がしっかり頭がいいことも。

あと、舞台の広がりもきれいだ。膳所、西武大津店、びわ湖周辺というローカルな熱量から始まり、2作目で世界が少し開き、3作目では京都へ出る。ただし成瀬のスケールだけは最初から大きい。だから読んでいて成瀬のどっしりした構えに、妙に安心感を覚える。 2026年7月には東京・京都・滋賀で舞台版の上演も予定されていて、シリーズ全体を通して読んでおくと、どこが舞台映えするのかも想像しやすいだろう。

『成瀬は天下を取りにいく』感想と軽いあらすじはこちら
『成瀬は信じた道をいく』感想と軽いあらすじはこちら
『成瀬は都を駆け抜ける』感想と軽いあらすじはこちら

もっと読みたい人へ

シリーズ外を読むなら、まずは『婚活マエストロ』が近い。主人公の年齢も題材も違うが、どこか場の空気を変えてしまう人を書く感覚はちゃんとつながっている。

もう少し部活もの、青春ものの側で広げたいなら『それいけ!平安部』だと思う。こちらは成瀬より集団の話に寄りそうだが、変わった熱意が周囲を巻き込んでいくところに、宮島未奈らしさがよく出ている。

全作品一覧(時系列)

単著の小説を中心に整理。現時点では作品数はまだ多くないので、追いやすい作家でもある。

タイトル 出版社 備考
2023 成瀬は天下を取りにいく 新潮社 デビュー作。2024年本屋大賞受賞、坪田譲治文学賞受賞
2024 成瀬は信じた道をいく 新潮社 成瀬あかりシリーズ2作目
2024 婚活マエストロ 文藝春秋 成瀬シリーズ後の初長編
2025 それいけ!平安部 小学館 高校の新設部活を描く青春小説
2025 成瀬は都を駆け抜ける 新潮社 成瀬あかりシリーズ3作目、完結編

どれから読むか迷ったら

代表作を押さえたいならまず『成瀬は天下を取りにいく』でいい。これは迷う必要なし。成瀬あかりのまっすぐさと、周囲がその勢いに引っ張られていくところまで、宮島未奈の持ち味がしっかり入っている。

成瀬シリーズの勢いとは別の角度から入りたいなら『婚活マエストロ』。少し年齢の上がった登場人物たちの空気があるので、大人の読者にはこっちのほうが馴染むかもしれない。部活ものや学校の集団感が好きなら『それいけ!平安部』もいいだろう。

成瀬シリーズだけの作家というわけでもないが、最初に心掴まれるのはやはり成瀬だ。そのあとで別の作品へ移ると、「この作家は元気な主人公を書くだけではない」とわかってくる。 成瀬3冊は電子版も揃っているので、追いかけたくなったタイミングで一気に読むのもあり。作品が増えるたびにどう世界が広がっていくのか、いまのうちに追い始めるにはちょうどいい作家だと思う。