成瀬は信じた道をいく

成瀬は信じた道をいく

宮島未奈 / 新潮社 / 2024-01-22

あらすじ

『成瀬は天下を取りにいく』 の続編にあたる一冊。今回も、成瀬あかりの人生が、周囲の人たちの生活と次々に交差していく。

「ゼゼカラ」のファンである小学生、娘の受験を気にかける父、近所のスーパーに意見を送り続ける主婦、びわ湖大津観光大使を目指して育った女子大生など、視点と人物は前作以上に幅広い。成瀬本人が中心にいながら、彼女を取り巻く人たちの人生も同時に動いていく連作短編集になっている。

全5篇構成で、前作を読んでいるとより面白いが、この巻からでも成瀬という人物の異様な魅力は十分伝わると思う。

続編でも成瀬の強さは全く鈍らない

続編ものは、どうしても一作目の新鮮さに勝てないことがある。

でも『成瀬は信じた道をいく』は、その不安を早い段階で消してくれる。成瀬あかりは相変わらず予測不能で、妙に落ち着いていて、自分の中の基準で迷いなく動く。その姿が、やはり読んでいて気持ちいい。ゼゼカラの余韻や、びわ湖大津観光大使のような地元密着の話題もそのまま続いていて、成瀬の世界がちゃんと地続きに広がっている。さらに今作では京都大学への進学という進路の話も出てきて、成瀬が大津という街の外へ踏み出していく気配もある。

しかも今回は、一作目よりも「成瀬を外から見たときのすごさ」がよくわかる。本人の行動がぶれていないからこそ、周囲の人の戸惑いや驚きや憧れがよりくっきり見える。続編なのにキャラクターの魅力が薄まらず、むしろ立体的になっていた。

周囲の人物が増えたことで世界が広がる

前作でも、成瀬の魅力は本人だけで完結していなかった。周囲の人の視点を通すことで、その輪郭が立ち上がっていた。

本作ではその構造がさらに強くなっている。小学生から父親世代まで、成瀬を見る年齢も立場も違う人たちが出てくることで、「この人はこんなふうにも見えるのか」と何度も思わされる。

特に面白いのは、成瀬が誰かを劇的に救うヒーローのようには描かれないことだ。むしろ、少し変わった人、空気を乱す人、でもなぜか無視できない人として現れる。その微妙な距離感がすごくうまい。だからこそ、周囲の人のマインドや行動が変化する過程が自然に見える。

島崎みゆきが読者の足場になっている

成瀬シリーズを読んでいて毎回思うのだが、島崎みゆきの存在はとても大きい。

成瀬の隣にいて、振り回されながらも、きちんと理解しようとする人がいる。そのことが、このシリーズ全体の読み心地を安定させている。成瀬のことを「わけのわからない人」で終わらせず、でも過度に美化もしない。その絶妙な受け止め方が、読者にとっての足場になっている。

今回は「ゼゼカラ」という前作から続く要素も残っていて、二人の関係の積み重ねがちゃんと効いているのもよかった。島崎は成瀬に対して、もう驚きはしないけど飽きてもいない、という独特の距離にいる。その距離感が、前作よりも少し大人びた形で描かれていて、シリーズとしての時間の経過を感じさせる。

父の視点が入ることで成瀬が少し違って見える

個人的に面白かったのは、成瀬を家族の側から見るパートだった。

外から見れば、成瀬は自由で、強くて、少しとっぴな人物だ。でも父親の視点が入ると、その成瀬にもちゃんと「家の中の娘」としての姿があることが見えてくる。このズレがよかった。11時45分より前に絶対寝ているところや、歯磨きしながら「おかえり」と言うところだ。

しかも、その視点が入ったからといって、成瀬が急にわかりやすい人物になるわけではない。近くにいてもなお完全には読み切れない。その感じが、かえって成瀬らしいと思った。理解しきれないけれど、信じることはできる。題名の「信じた道をいく」にもつながる感覚がある。

街の中で成瀬がどう見えているかが一冊で立ち上がる

一話ごとの区切りがはっきりしているので、読みやすさは高い。

それでいて、ばらばらの短編を並べた印象にはならない。読み進めるうちに、「成瀬あかりという人物が街の中でどう存在しているのか」が少しずつ見えてきて、一冊としてちゃんとまとまっていく。

前作が成瀬という人物の鮮烈な登場編だとすれば、今作はその人物が周囲の人生にどう影響しているかを描く巻、という感じがある。続編として無理のない広げ方をしていると思った。

読後感について

読後感は前作と同じく明るい。

成瀬の突き抜けた行動や言葉に笑わされる一方で、周囲の人たちがそれぞれ抱えている迷いや疲れも丁寧に描かれている。だから単純に「変人が面白い話」では終わらない。読んだ後に残るのは、成瀬の強烈さだけでなく、人との関わり方のあたたかさでもある。

何か大きな事件が起きるわけではないのに、ちゃんと満足感がある。こういう連作短編は意外と難しいが、本作は終始ぶれずに面白かった。 映像化の話も今後出てくるかもしれないが、個人的には文章のままで成瀬を理解したいと感じる。映像にすると雰囲気が伝わりづらいだろう。

どんな人におすすめか

まずは前作 『成瀬は天下を取りにいく』 が好きだった人には、そのまま強くすすめられる。

加えて、ちょっと変わった主人公が周囲に影響を与えていく話が好きな人、複数視点で一人の人物像が立ち上がる構成が好きな人、地方都市の空気が生きている小説を読みたい人にも合うと思う。

逆に、一直線の長編や大きなドラマを求める人には、少し小粒に感じるかもしれない。ただ、このシリーズの良さは事件の大きさではなく、人物の存在感そのものにある。

まとめ

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』は、前作の勢いを保ったまま、成瀬あかりの世界をきちんと広げた続編だった。

成瀬は相変わらず予測不能なのに、読んでいると不思議と安心感がある。それは、どれだけ変わっていても、この人はこの人の筋を通しているとわかるからだと思う。

前作が面白かった人なら、まず気に入るはずだし、この巻を読めば成瀬という人物をさらに好きになるはず。まだ前作を読んでいないなら、先に 『成瀬は天下を取りにいく』感想と軽いあらすじ から入るのがおすすめだ。読み終えたら、そのまま完結編の 『成瀬は都を駆け抜ける』感想と軽いあらすじ へ進むとシリーズの流れがきれいにつながる。シリーズものとして、とても良い続編だった。