伊坂幸太郎という作家
2000年に『オーデュボンの祈り』でデビュー。以来25年以上、コンスタントに作品を発表し続けている。
会話が軽い。世界が少しだけ歪んでいる。それでも最後に残るのは、人間への妙な信頼感だ。ミステリー作家として括られることが多いが、伏線や謎解きよりも「人物と会話と、その積み重ね」を読む作家だと思っている。
仙台を舞台にした作品が多く、登場人物が複数作品をまたいで登場することがある。ひとつの作品の気に入ったキャラクターが別の本に顔を出す、という発見も読書の楽しみになる。
はじめて読む人へ:最初の一冊
ゴールデンスランバー(2007年、新潮社)

ゴールデンスランバー
首相暗殺犯に仕立て上げられた宅配ドライバーが、仙台の街を逃げ続ける。600ページあるが、読み始めると止まらない。本屋大賞・山本周五郎賞受賞作。伊坂らしさが最もわかりやすく詰まっている一冊。
アヒルと鴨のコインロッカー(2003年、東京創元社)

アヒルと鴨のコインロッカー
「一緒に本屋を襲わないか」という奇妙な誘いから始まる。ゴールデンスランバーより短く、構成の仕掛けを味わいたい人に向く。吉川英治文学新人賞受賞作。
重力ピエロ(2003年、新潮社)
遺伝子、兄弟、連続放火事件。家族の秘密が少しずつ明かされていく構成で、伊坂作品の中でも読後感が重い部類に入る。会話のテンポは軽く、重さと読みやすさが同居している。
シリーズものの読み方
殺し屋シリーズ(4作)
殺し屋たちが主役のシリーズ。それぞれ独立して読めるが、読む順に世界が広がる。
- グラスホッパー(2004年、角川書店)— シリーズ開始。三人の視点が交錯する。
- マリアビートル(2010年、角川書店)— 新幹線の中で展開するクローズド・サスペンス。
- AX アックス(2017年、KADOKAWA)— 最強の殺し屋の「家族」の話。シリーズの中で最も静かで重い。
- 777 トリプルセブン(2023年、KADOKAWA)— シリーズ完結作。
陽気なギャングシリーズ(3作)
4人の天才強盗団が主役。軽くて明るい。伊坂作品の中では最も読みやすい部類。
- 陽気なギャングが地球を回す(2003年、祥伝社)
- 陽気なギャングの日常と襲撃(2006年、祥伝社)
- 陽気なギャングは三つ数えろ(2015年、祥伝社)
魔王シリーズ(2作)

魔王

モダンタイムス(上)

モダンタイムス(下)
社会と権力への問いを軸にした、伊坂作品の中では異色の重めなシリーズ。
- 魔王(2005年、講談社)
- モダンタイムス(2008年、講談社)— 魔王の続篇
チルドレン/サブマリン(2作)
家庭裁判所調査官・陣内が登場するシリーズ。
- チルドレン(2004年、講談社)
- サブマリン(2016年、講談社)
もっと読みたい人へ
砂漠(2005年、新潮社) ——大学生5人の群像劇。青春小説として読める伊坂作品。派手な事件は起きないが、読後に何かが変わっている。
フーガはユーガ(2018年、実業之日本社) ——双子の兄弟が抱える特殊な能力と過去。読み終えると、タイトルの意味が変わる。
逆ソクラテス(2020年、集英社) ——短編集。「決めつけられた子ども」が主人公の話が多く、伊坂作品の中では珍しく教育や学校を舞台にしている。読みやすく、現時点でのおすすめとして挙げやすい一冊。
全作品一覧(時系列)
エッセイ集・共著は ※ で表記。
| 年 | タイトル | 出版社 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2000 | オーデュボンの祈り | 新潮社 | デビュー作、新潮ミステリー倶楽部賞受賞 |
| 2002 | ラッシュライフ | 新潮社 | |
| 2003 | 陽気なギャングが地球を回す | 祥伝社 | |
| 2003 | 重力ピエロ | 新潮社 | |
| 2003 | アヒルと鴨のコインロッカー | 東京創元社 | 吉川英治文学新人賞受賞 |
| 2004 | チルドレン | 講談社 | |
| 2004 | グラスホッパー | 角川書店 | 殺し屋シリーズ① |
| 2005 | 死神の精度 | 文藝春秋 | 短編集 |
| 2005 | 魔王 | 講談社 | |
| 2005 | 砂漠 | 新潮社 | |
| 2006 | 終末のフール | 集英社 | 短編集 |
| 2006 | 陽気なギャングの日常と襲撃 | 祥伝社 | |
| 2007 | フィッシュストーリー | 新潮社 | 短編集 |
| 2007 | ゴールデンスランバー | 新潮社 | 本屋大賞・山本周五郎賞受賞 |
| 2008 | 実験4号 | 講談社 | ※共著 |
| 2008 | モダンタイムス | 講談社 | |
| 2009 | あるキング | 徳間書店 | |
| 2009 | SOSの猿 | 集英社 | |
| 2010 | オー!ファーザー | 新潮社 | |
| 2010 | バイバイ、ブラックバード | 双葉社 | |
| 2010 | マリアビートル | 角川書店 | 殺し屋シリーズ② |
| 2010 | 3652 | 新潮社 | ※エッセイ集 |
| 2012 | 仙台ぐらし | 荒蝦夷 | ※エッセイ集 |
| 2012 | PK | 講談社 | 短編集 |
| 2012 | 夜の国のクーパー | 東京創元社 | |
| 2012 | 残り全部バケーション | 集英社 | 短編集 |
| 2013 | ガソリン生活 | 朝日新聞出版 | |
| 2013 | 死神の浮力 | 文藝春秋 | 死神の精度・続篇 |
| 2014 | 首折り男のための協奏曲 | 新潮社 | 短編集 |
| 2014 | アイネクライネナハトムジーク | 幻冬舎 | 短編集 |
| 2014 | キャプテンサンダーボルト | KADOKAWA | ※共著 |
| 2015 | 火星に住むつもりかい? | 光文社 | |
| 2015 | ジャイロスコープ | 新潮社 | 短編集 |
| 2015 | 陽気なギャングは三つ数えろ | 祥伝社 | |
| 2016 | サブマリン | 講談社 | |
| 2017 | AX アックス | KADOKAWA | 殺し屋シリーズ③ |
| 2017 | ホワイトラビット | 新潮社 | |
| 2018 | フーガはユーガ | 実業之日本社 | |
| 2019 | シーソーモンスター | 中央公論新社 | |
| 2019 | クジラアタマの王様 | NHK出版 | |
| 2020 | 逆ソクラテス | 集英社 | 短編集 |
| 2021 | ペッパーズ・ゴースト | 朝日新聞出版 | |
| 2022 | マイクロスパイ・アンサンブル | 文藝春秋 | 短編集 |
| 2023 | 777 トリプルセブン | KADOKAWA | 殺し屋シリーズ④ |
| 2025 | 楽園の楽園 | 中央公論新社 | |
| 2025 | さよならジャバウォック | 双葉社 |
最後に
25年かけて積み上げてきた作品群は、どこから入っても伊坂幸太郎らしさに出会える。ただ、最初の一冊の選び方で印象は大きく変わる。
迷うなら『ゴールデンスランバー』から。構成の仕掛けを楽しみたいなら『アヒルと鴨のコインロッカー』、家族と謎が交差する重みが欲しければ『重力ピエロ』。気に入ったら、同じ登場人物が別の本に顔を出す瞬間を楽しみながら読み進めてほしい。



