星を編む

星を編む

凪良ゆう / 講談社 / 2023-07-20

あらすじ

『汝、星のごとく』 の続編にあたる一冊。前作で描ききれなかった過去や未来が、三つの物語として綴られる。

教師・北原の過去を追う「春に翔ぶ」、編集者たちの仕事と櫂の才能を描く「星を編む」、そして暁海のその後につながる「波を渡る」。前作の余韻を壊さずに、別の角度から人物たちを照らし直す続編だった。

「補足」ではなく、前作の外側をきちんと広げる続編

続編短編集というと、後日談の寄せ集めで終わることもある。

でも『星を編む』は、そういう軽い補足ではなかった。前作で残っていた感情や問いに、別の角度から答えを返してくる。人物同士の関係や、それぞれが背負っていたものが少しずつ整理されていく感じがあって、その意味で「続編を読む意味」がはっきりしていた。本の分厚さも同じくらいある。

特にいいのは、前作の感動をなぞるだけではないことだ。同じ人物たちを扱っていても、見せたいものが違う。過去、仕事、未来。愛の形も一つではないということが、短編ごとに少しずつ伝わってくる。

編集者の物語が予想以上によかった

個人的に印象に残ったのは、編集者たちの物語だった。

作家や作品そのものではなく、それを支える側の人間を描くことで、前作では見えなかった櫂の輪郭も浮かび上がる。才能だけで作品は届かないし、誰かがそれをつなぐことで初めて読者のところまで届く。その現実がちゃんと物語になっている。

こういう仕事の話が入ることで、『汝、星のごとく』の世界がぐっと広がった。恋愛や家族の話だけではなく、物語が社会の中でどう生きるかまで見えてくる感じがする。三篇の中でもいちばん「前作の外側」に出ていく話で、その役割が大きかった。この一篇が入ることで、前作で見えていた櫂の像も少し整理される。

暁海の先を描く意味

前作を読んだ人なら、暁海のその後が気にならないわけがない。

だからこそ、この続編でその先が描かれることに意味があった。前作の終わり方は強かったが、あそこで完全に閉じてしまうには惜しい人物でもあった。その余白を埋めるというより、余白の持つ意味を少し変えてくれる感じがある。

前作の痛みが消えるわけではない。でも、そこから先にも人生は続いていく。その当たり前のことが、静かに効いてくる。

北原先生は人を救いすぎている

最初の「春に翔ぶ」を読むと、北原があまりにも人を救いすぎている、と思わされる。もちろんそれがこの人物の良さでもあるのだが、ここまで人の痛みに手を伸ばせるのは少し出来すぎにも見える。

ただ、その「救いすぎる」感じがあるからこそ、若い登場人物たちの痛みだけでなく、その周囲にいた大人たちの時間にも目が向く。少し理想化されているように見えつつも、この一篇があることでシリーズ全体の厚みは確実に増していた。

三篇がそれぞれ違う方向を受け持っている

「春に翔ぶ」は過去を補い、「星を編む」は仕事と才能を広げ、「波を渡る」は未来へつなぐ。三篇ともやっていることが違うので、短編集なのに散らかった印象がない。前作の外側にあった時間が順番に埋まっていく構成もよくできていた。

読んでいて何度か思ったのは、たぶんこの物語には相当緻密な設定が最初からあったのだろう、ということだ。後から継ぎ足した感じではなく、前作で見えていなかった部分をちゃんと別角度から照らしている。だから再整理の仕方に無理がない。

読み終えて残るもの

前作の痛みを引きずったまま読み始めたが、読後は少しやわらかかった。

『汝、星のごとく』を読んで強く残った人ほど、この続編は読んだほうがいい。三篇それぞれで温度は違うが、全体として満足度の高い一冊。

ただ、それでも改めて思うのは、一作目を超えるものではないということだ。続編としてよくできているし、読んでよかったとも思う。でも最初の一冊が持っていた痛みや切実さの強さは、やはり特別だった。

どんな人に向くか

前作 『汝、星のごとく』 が刺さった人にはそのまますすめられる。

また、人物のその後や、物語の外側にいる人たちまで含めて世界を見たい人にも合う。「一作目を超える続編」というより、「一作目をもう少し深く理解するための、とても出来のいい続編」として読むのがいちばんしっくりくる。

逆に言うと、前作未読だと人物の積み重ねが効く場面を取りこぼしやすいので、読むなら 『汝、星のごとく』 の後しかない。

最後に

凪良ゆう『星を編む』は、『汝、星のごとく』の感情を丁寧に受け止め直す続編だった。

前作の読後感を壊さず、それでいて新しい視点を足してくる。情報を再整理し、世界を広げる続編としては手堅く優秀だと思う。前作を好きになった人なら、ほぼそのまま読んで損はない。