暁星

暁星

湊かなえ / 双葉社 / 2025-11-27

あらすじ

宗教二世の永瀬暁は、全国高校生総合文化祭の表彰式で、来賓として出席していた文部科学大臣・清水義之を刺殺する。逮捕されたあと、暁は週刊誌で獄中手記『暁闇』を書き始め、自分が犯行に至るまでの経緯を語っていく。 そこには、作家だった父の挫折と死、弟の病死、母の新興宗教への傾倒、そして清水と教団が絡む言葉の搾取が重なっている。

前半は暁の手記で物語が進むが、後半では同じ宗教二世である作家の白金星賀の側から別の小説『金星』が立ち上がり、同じ出来事が別の角度で読まれ始めて運命が交差していく。

前半だけだと、暁はただ自己中に見える

正直に言うと、『暁闇』を読んでいるあいだは少しつらかった。暁の犯行は重たい話だし、怒りの向かう先も分かるが、それがどこにつながるのかが見えにくい。宗教、家庭、父の挫折、弟の死と、背負っているものが多いにも関わらずだ。作中のSNSの反応と同様、「これは結局自己中なのでは。動機に一貫性がないな」、という感想が頭をよぎる。

そのせいで、読んでいる側は暁の独白を受け止めきれず、少し置いていかれる気分になるだろう。そこはあえてそうしているのだと後で気づくが、この本を読む上では乗り越えるべきポイントになる。

ただ、その引っかかりが後半で意味を持ち始める。「星を守りたかっただけ」という一点まで話が絞られたとき、前半で自己中心的に映っていた行動が、少し違う受け取られ方に変えられていく。

ここで変わるのは、暁の行動そのものではない。変わるのは、こちらの読み方のほうだ。前半では作中SNSのコメントと同じように、外側から暁を裁きかけていた。後半に入ると、その判断の早さまで作品の中に取り込まれていたことに気づく。そこが面白かった。

『暁闇』と『金星』を行き来する構成が効いている

この作品の特徴は、獄中手記『暁闇』と、白金星賀による小説『金星』が交差する構成であり、いわゆる『暁星』としての説明はほとんど出てこない。手記と作中作で物語が進んでいく読み味はあまり経験がなく、かなり新鮮だった。

後半で『金星』が『暁闇』の内容を回収し始めると、前半の引っかかりがどんどん解消されていく。自分は同じところに戻って読むことはしないが、つながりを確認するために、もう一度『暁闇』を読みに戻ることをおすすめする。それか、前半の内容を頭の中で反芻しながら後半を読むと、物語に深く没入できるだろう。

また、この構成はフィクションとノンフィクションの境目が揺れる。暁が見ていたものと、星賀が書こうとするものがぴたりと一致しない。そのずれがあるから、単なる事件の真相解明で終わらず、言葉そのものをどう使うか、真実を読者がどう定義するかに解釈が拡大される。

この二重構造は、ただ凝った構成というだけではない。前半の『暁闇』では、暁が自分の言葉で事件を語る。後半の『金星』では、星賀がその言葉を別の物語として受け取り直す。清水や教団が人の言葉を奪って利用してきた話の中で、『金星』だけは奪われた言葉をもう一度誰かの手に戻していくように読めた。

さらに言葉で弱者を搾取する話として読めた

宗教二世の話、家族の話、恋愛の話といろいろ入っているが、この本で特筆すべきだと思ったのは、言葉を使って弱者から搾取する構造まで描いていたところだった。宗教団体だけではなく、出版社や文壇の力関係まで含めて、弱い側の言葉が吸い上げられていく。 愛光教会の「かき、けす」という現実には存在しないであろう概念が、作中では最初からそこにあった言葉のように馴染んでいる。

"人間は平等なのだ、と拡声器を片手に叫ぶ者がいる。私はそれが当たり前である社会を作りたいのだ、と。ならば、どうしておまえは俺よりも一段高い場所に立っているのか。" ——『暁星』8ページ 暁の台詞

この手の話は、現実の事件を思い出す人も多いはずだ。ただ、この本は事件の写しでは終わらない。宗教の問題を入口にしながら、想像力のない人間がどうやって他人の人生を消費するのか、という話まで踏み込んでくる。

まとめ

最後には暁と星賀がそれぞれ、星を守ること、物語る星であり続けることを選ぶ。その決意と救いへの祈りが最後まで一本通っており、話の規模はかなり大きい。彼らは明日を望めない人たちにとって、暗闇の中でいちばん先に光る星になろうとする。その壮大さがこの作品の強みだ。

『PRIZE―プライズ―』感想と軽いあらすじ も、言葉が人を追い詰める話だったが、『暁星』はもっと大きい場所でそれをやっている。宗教、家族、文壇まで抱え込んで、それでも最後は星を守る話として着地する。読後に残るのは事件そのものより、「言葉は誰を救って、誰を奪うのか」という問いのほうだった。